社会人になった年、父から祖父のボールペンをもらった。

祖父は私が物心ついた頃には入院していて一緒に過ごした思い出は少ない。

父から聞いたところによると戦前は兵役で中国、ロシアに渡り、
戦後の焼け野原で会社をつくった人物だという。
そんな祖父の遺品は一流ブランドのモンブラン。
調べてみるとそれは今もなお販売されているベーシックなスタイルのもので
マイスターシュテュッククラシック164というものらしい。

なんとも長い名前だ。

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モンブランはドイツの筆記具メーカー。
筆記具に詳しくなくとも一度は耳にしたことのあるビジネスマン憧れのブランドだ。
ペンの上部に飾られた「ホワイトスター」と呼ばれる白い星型が印象的で、
それは同名モンブランの山頂を覆う雪をイメージし、
モンブランの筆記具に欠かせないマークとなっている。

その中でもマイスターシュテュックは1924年から続くモンブランの代表的なシリーズで
「マイスターシュテュック」はドイツ語でマスターピース、つまり傑作を意味する。
そう、これはモンブランという一流ブランドが「傑作」と名付けたボールぺンなのだ。

程よいサイズの164は祖父の手にも馴染んだのだろう。
ビジネスマンの仲間入りをした私は、このボールぺンからモンブランブランド同様、
一流であろうとした企業人の祖父を感じた。

父から受け継いだ当初は、
私が使っていいのだろうか身の丈に合わないのではないかと躊躇していたものの、
家で使う分には誰に嫌味を言われるわけでもあるまいとこっそり日記をつけていた。
しかし、この重みと少々筆圧を必要とする書き味は威厳があって心地よく、
自分自身がグレードアップしたような気持ちになった。

この胸の高鳴りは今までに感じたことのないもので、このボールぺンを使い仕事をこなす自分を想像させ、
時を経ても艶やかなボディはその衰えない美しさに見合う人物になろうと思わせてくれる。

私も社会人になるあの人に、一流を目指しているあの人に、
マイスターシュテュック クラシック164 を贈ろうか。